料亭つたも主人・深田正雄の住吉の語り部となりたい

第85回(2018.4.24)

モージャー氏戦後写真と料亭蔦茂の黒塀

第二次世界大戦後、GHQの文民スタッフ(civilian secretarial staff)としてロバート・モージャー氏が1946年4月~1947年1月に日本に滞在した際、東京、名古屋、広島等の全国各地で撮影した街頭風景や建築物のカラー写真304枚が、国立国会図書館デジタルコレクションとして昨年末公開されました。 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10756455

昭和20年3月12日名古屋中心部の大空襲で焼け野原となり、その後、終戦16ヵ月を経た栄ミナミの写真から、蔦茂旅館建設当時の界隈の写真を発見しました。

モージャー氏撮影写真 国会図書館デジタル画像#86 中央のみトリミング
モージャー氏撮影写真 国会図書館デジタル画像#86 中央のみトリミング

昭和22年1月頃、焼け残った4階建ての中部配電ビル(現在・大津通中電ビル)屋上から北西の本町方向を撮影した雪景色の映像と思われます。

中央右はGHQ司令部大和生命ビルが聳え、周辺に木造の新しい建物が建設されつつあります。当時はアメリカ村建設が完了しつつあり、区画整理前で道路が明確となっていませんが、戦前の碁盤割を基本に道路が拡幅されつつある過程です。

一番左の木造二階建て蔦茂本館、南の三蔵通りができる前で、まだ塀や囲いがなく唯一の家が建ち、2階からは名古屋駅ステーションビルが見渡せたと聞いています。

松竹ステート座・映画館
松竹ステート座・映画館 デジタル画像#240
喫茶茶ばしら
ステート座通り挟んで喫茶茶ばしら、拡幅工事中 デジタル画像#162

住吉通りと広小路交差点の富国生命ビルには戦争未亡人達の華やかな職場・キャバレー赤玉会館が入居し、南呉服町にはいち早く松竹映画館「ステート座」(現在・キング観光サウザンド栄町店)が建設されています。

拡幅予定道路の反対側には、最初の喫茶店「茶ばしら」がオープンし、現在は立体駐車場「スカイパーク茶ばしら」として現存しています。

中村百貨店
中村百貨店・S21年末開店セール、左はGHQ本部
元大和生命ビル デジタル画像#165

同時にGHQ本部東、現在の三菱UFJ銀行名古屋営業部には中村百貨店が開業して、オープンセールの様子が撮られています。

同店はその後、昭和29年に栄交差点の現在三越の場所に平松さんから賃借してオリエンタル中村百貨店と改称し、カンガルーがキャラクターのデパートとなりました。昭和55年には名古屋三越となりましたが、屋上にはわが国最古の「観覧車」とカンガルー人形が展示されています。

平松さわさん・50歳ごろ
平松さわさん・50歳ごろ
提供:オリエンタルビル

蔦茂旅館は昭和21年末に7部屋で営業開始し、戦後の復興最初の宿屋として大繁盛。しかし、囲いもなく用心が悪いので黒塀を建築する予定でしたが、本館開業で資金が枯渇してしまい、苦慮しておりました。

当時、祖父・深田良矩の実弟・胤次が須成深田家の後継ぎとして佐屋村の学校教員を務めたころ、山田忠本家酒造の8代目山田忠右衛門さん子女の教師であったご縁で、新築祝いでお酒を馬車イッパイご寄贈いただきました。

お店で使用するのは一部で、ほとんどを「平松さわ」氏が仕切る闇市場(現在の名古屋三越周辺)で販売、隣に戦地から引き揚げてくる板場衆が天ぷら屋台をやりながら黒塀建設資金を調達したようです。

山忠さんにはお礼に、多治見中学の教員であった祖母の弟が、教え子のいた東濃の亜炭採掘場から内津峠を越えて、燃料を馬車で佐屋村まで運んであげたと、自慢げに祖父が話をしていたようです。

それでも資金が足らず、徴用から隠し持っていた、大切なレミントンの猟銃を進駐軍将校に売却してやっと「ヒノキとシバ」の黒塀で完成、現在の面影となったとのことです。

祖父・深田良矩愛用のレミントン猟銃
祖父・深田良矩愛用のレミントン猟銃 戦災で全焼するも鉄砲だけは担いで逃げ、隠し保存していた。
店の黒塀建設のためにお宝を売却した悔しさを、何度も「正雄くん」に語っていました。
つたも黒塀西
つたも黒塀西、キクモモと緑の樹木の色合いが人気
住吉通りの初夏の風物詩
南側の黒塀
南側の黒塀 もみじの緑とカエデの茶
左角が調理場で毎朝の出汁の香りが懐かしい

黒塀の中庭には常緑樹・クロガネモチ、ヤマモモ、そして、もみじ・カエデ、棕櫚2本が樹齢100年となろうとしています。

かつては栄周辺の街路樹は柳一辺倒でしたが、住吉通りは毎年4月中旬に満開となる街路樹のキクモモと黒塀とのコラボレーションが住吉の風情として名物です。

キクモモに合わせるように、栄ミナミではオウカンサクラを南北に、オカメ桜を東西の三蔵通りに平成28年より町内地権者の協力で145本植樹して、毎年3月より「栄ミナミ早咲き桜まつり」開催とともに、花のある町としてイメージ創りをしております。

黒塀の中心・南西角には調理場の煮方台がありますが、ここでは午前10時ごろから指宿からの「メジ鮪節」を引き、一番出汁をとる香りが通りにまで広がります。

この香りは住吉の名物フレーバーとして、現在も通りかかる人々に憩いを提供しております。地元では“栄ミナミの3大フレーバー”ともいわれ、ほかに南大津通の「妙香園」のほうじ茶を煎ずる薫り、南呉服町の「いば昇」の蒲焼の匂いが名物「街の香り」でした。

つたも・特選だしパック
つたも・特選だしパック 70g(10g×7袋)
価格 1,200円(税別)
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板前の作る料亭蔦茂伝統の出汁をお手軽に賞味いただけるよう以前から研究し、昨年末より「名物メジマグロ特選出汁」をパックとして販売できるようになりました。お気軽にギフトなどにもご利用いただければ幸いです。