栄ミナミ・まちを演出する・・・仕掛けとしてのデザイン
~名工大・伊藤孝紀研究室からの提言~
ユネスコ認定というと和食、山車からくり、各歴史遺産などが思い浮かびますが、名古屋市は2008年8月にユネスコから「クリエイティブ・シティ」の称号をもつ、世界に認められた数少ないデザイン都市ということをご存知ですか?
こんな切り口で街づくりのブランド戦略を語り続ける“よそ者・変わり者”(敬意を込めて)、名古屋工業大学大学院・伊藤孝紀准教授は伊勢桑名市多度町出身、栄ミナミ大好きで、街の仲間たちに“栄=デザインタウン”コンセプトを熱く語り続けています。
実は栄ミナミのさまざまなプロジェクトやイメージ作りの多くは、伊藤先生と伊藤研究室学生のアイデアと提案が原点。そして、社会実験の名のもとにトライしながら実現しています。
事の始まりは今から8、9年前、栄ミナミ音楽祭がスタートして地域コミュニティができ、街づくりへの課題が共通の認識となった頃でした。伊藤先生から「研究室の学生が栄ミナミ矢場町1-2丁目のデザインプランを模型で作成したので、研究成果を地元の人々に聞いていただき、コメントしてほしい」との話がありました。チームごと数人の学生が3つに分かれ、「住みやすい街」「緑の空間」「路地の活用」etc・・・あまりにもユニークなアイデアにビックリするとともに、通行量調査、個々の建物の立体模型、矢場公園リニューアル、寺社の活用と共同開発など熱意ある発表に感動するほか、レベルの高い学生の発想の転換といえる都市づくり案に唖然としました。そして、これが縁で知り合えた学生さんたちは街のイベントボランティア、清掃活動、若宮祭礼などに参加しながら、いまやともに栄ミナミを演出する仲間となっています。
1988年に実施した「世界デザイン博」をきっかけに、名古屋市は「デザイン都市」を宣言。栄ミナミのランドマーク・ナディアパークがメディアポートとしてオープン、国際デザインセンターを中心に矢場公園と空中階段でつながっています。この恵まれたデザイン環境に気がついたのも学生からの提言を聞いたからです。四季折々のイベント運営から街づくりへのトータルコンセプトの重要性も理解できるようにもなりました。
今回は、伊藤研究室からの「市民主体のマスタープラン」そして、エリアマネジメントへのチャレンジ事例を2、3紹介できればと思います。
名古屋市の都心部は、江戸時代から碁盤目状に構成されています。しかし、栄ミナミ地区は南北の通りが「く」の字型に屈折しているのが特徴です。逆「く」の字をデザインモチーフに、ロゴマーク、街路灯、ベンチ、サイン看板、駐輪ラックなど、すべてを統合しました。そして個性ある各通りのカラーイメージを決定。産官学が連携して、地域主体のマスタープランの実現となっています。
伊藤孝紀研究室は名古屋駅地区まちづくり協議会に働きかけ、栄ミナミとともに「NAGOYA創造協議会」事務局として、両地区をつなぐ三蔵通りに着目、クリエイティブ産業のクラスターストリート「文化・交流軸」を提案しています。久屋通りから名駅南までオカメ桜を2kmに植樹、歩行者優先、トラム導入など従来の発想から飛躍したプランを実行させるべく、できることから行動しています。オカメ桜の植樹も南呉服町より開始、研究室からの提案もあり、先月には第10回栄ミナミ音楽祭に連動して名駅ナナちゃんストリートで開催でき話題となりました。
各通りのイメージ統合 住吉・プリンセス大通り・南伊勢町 テーマカラーの設定
学生たちの固定概念を打ち破る発想は、プリンセス大通りアーチ広告の実現、路上でのデジタルサインボードで企業タイアップ、矢場公園リニューアルなど、これからの街づくりへの話題提供にも事欠きません。
今年は栄ミナミの新たな街づくりとして、社会実験によるデジタルサイネージ、有料駐輪場、コミュニティサイクル事業がスタートいたしました。
イメージ統合しながら、栄ミナミのブランディング、そして、市民が当事者意識を持ち経営の視点から将来ビジョンへつなげるのが、今後のポイントとなります。
栄ミナミの街づくり、行政主導ではなく自らの街を自らの手で切り拓くパワーが基本。「安心・安全」から、イベントによる「事づくり」、コミュニティ対話の「人づくり」を理念に、栄ミナミエリアマネジメント(株)設立プランも具体化しています。伊藤先生の働きかけで産官学の力を結集させて2016年10月には始動しようと今動き出しています。
参考資料:「名古屋魂 21世紀の街づくり提言書」 伊藤孝紀著(平成25年2月・中部経済新聞社刊)
使用データ:伊藤孝紀研究室より
伊藤孝紀:建築家・デザイナー 名古屋工業大学大学院 准教授・博士 (芸術工学) http://ti-di.info/
74年 三重県生まれ。94年 TYPE A/B設立。97年 名城大学建築学科卒業。07年 名古屋市立大学大学院博士後期課程満了。07年より現職。建築、インテリア、 家具のデザインや市場分析からコンセプトを創造しデザインを活かしたブランド戦略を実践。行政・企業・市民を巻き込んだ街づくりに従事し、社会・世界に向け活発に活動中。
参考データ:
2013年一本の街路灯の実現から:「く」の字ブルーカラーを南伊勢町にてトライ
三蔵通りの再発見と可能性:久屋大通りから名駅南までの周辺地区の既存コンテンツ
研究室のスタッフがクリエイティブクラスターを提言
栄ミナミエリアマネジメント社会実験 広報用チラシ案 2016年6月地域に配布予定
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