料亭つたも主人・深田正雄の住吉の語り部となりたい

第106回(2023.6.22)

歴史と今が共存するまち‐久屋大通界隈

 
写真はミライタワーでの参加者一行

名古屋の中心・栄を南北に貫く久屋大通には、多様な歴史や物語が残っています。
戦国時代は藤野という山と森に囲まれた台地、清須越しで碁盤割の東側に豊富な水源(紅葉川・小袖川)を活用し、平地として開発された尾張徳川のニュータウン、豊かな商人たちと中級武士が共存した街です。

多くの商人、文人が住んでいた「江戸時代」の歴史、官庁街となった「明治・大正」、名古屋テレビ塔が誕生した「終戦後」の歴史、そして、現在の「久屋大通の再開発」という切り口から今年3月17日中部経済同友会文化の街づくり委員会主催の「ステキ・小粋・まち歩き」のガイドつとめさせていただきました。

事務局作成のパンフレットを活用しながらご一緒にツアーをお楽しみください。

藩祖徳川義直の家来・御普請奉行松井武兵衛

武兵衛は家康の命により清須越しを所轄、豊臣恩顧の大名の資金と労役を駆使して、バラバラであった清州の町衆を町名もそのまま中央部の碁盤割に移転、寺社仏閣は宗派にわけて南寺町、東寺町を形成、万が一の外部からの攻撃に備えて松平の頃からの家老の菩提寺を碁盤割南に移設しております。

大木戸と各所木戸による城郭形成と町の自治を庶民に委託して、世界に類のない見事な都市移転開発をしております。また、豊富な木曽の伏流水から紫川、小袖川の流れと各ブロックに20~30本掘削した井戸を生活用水とし、ゴミゼロ社会、そして、糞尿を汲み取って近隣の田畑に下肥として活用。素晴らしい環境循環社会はSDG's社会を目指す現代人が見習うポイントが多くあります。そして、武兵衛は碁盤割の東側に住み、通りは武平町と呼ばれるようになりました。

明治の街づくり・吉田禄在の功績

禄在は明治16年初代名古屋区長として東海道線ルートを起案し名古屋誘致させ、広小路を長者町筋から西に拡幅、笹島の名古屋駅まで整備し街の開発に寄与しています。その後、中央線の千種駅開設に伴い広小路を東に延長。さらには碁盤割の東南の武家住居跡地に公官庁、警察、学校などを集約して栄町とするなど、武兵衛と並ぶ名古屋街づくりの功労者といえます。

また、現在の中区役所西に位置した禄在宅は南に5mほど低くなり、高低差を活かした野趣にあふれる庭園から、山田才吉が開発した東陽町通りをへて堀留となり、精進川の源流となっていました。この精進川を改修して現在の新堀川建設、そして浚渫土を活用して鶴舞公園埋め立てに貢献しています。

田淵寿郎・戦後の都市計画と区画整理

名古屋市を大文化産業都市に再構築するという大陸的な俯瞰と強い信念のもと、ひたすら道路を造り続ける。田淵の計画は幅員の広い道路を何本も東西南北に通し、市内各所に有った279の墓所をまとめて一カ所に集中させるというもので、当時の交通事情(車が主要な交通手段ではなかった)を考えると非常に大胆なものでした。

現在、名古屋名物ともなっている100m道路は、田淵の都市計画構想の代名詞ですが当初は猛烈な反対に遭いました。さらに政府、寺社からも100m道路予定地の上にあった名古屋刑務所、墓所の移転に対して大変な抵抗がありましたがねばり強く交渉を続け、また市民から「大ぶろしき」と揶揄されながらも鉄の信念を貫き通した結果、ついにこれを実現。全市の20%を超える土地を道路・公園用地にするという大改造を行いました。これらは後年、日本の大都市で最もモータリゼーションに適した交通インフラの礎となりました。

私は名古屋都市づくりの三恩人として、武兵衛、禄在、そして空襲で焼け野原となった名古屋の復興計画を実行した田淵寿郎の3氏を挙げており、私たちの街づくりの原点として久屋大通周辺に3人の思いが集約されているように感じています。

まち歩きツアーは外堀通りから南下しながらご案内。江戸時代の豊かな商人たちが芭蕉のスポンサー、識字率が高く庶民が文化を嗜むきっかけが「俳句」といえましょう。句碑は(株)三晃社の創立25周年を記念して創業者の松波金彌氏が昭和44年に寄贈、その後移設されました。若き貴公子 藤原師長と井戸田の土豪の娘「かい」との琵琶にまつわるラブストーリーにも涙を誘いました。

鍛治屋町の武家牧墨僊宅(今のラシック)に北斎が逗留して西本願寺で「だるま絵」イベント、そして、芭蕉とともに出版印刷を活用してデビューしたお話、お武家さんもゆとりあった江戸の頃を回顧いただきました。

豊かな小袖川の流れと高低差のある土地には豪邸が多く、月見を楽しみ茶会を催し、美味しいお酒や芸人で経済界の交流も盛んでした。成田山萬福院を中心に名鉄の神野金之助、タキヒヨーの瀧兵右衛門、名商の上遠野富之助、米商会所の吉田禄在、トヨタの豊田佐吉、治水の黒川治愿などの邸宅も明治大正の地図に記載されています。

そして現在、中部電力MIRAI TOWERを中心にレイヤードヒサヤオオドオリパークがオープンしお洒落な街なみに変革。錦通り以南の公園開発のユニークなプラン、7月開業のホテルTIAD、来年オープンの中日ビル、26年夏オープン予定の錦三丁目二五番街区ビル(栄広場)、回遊性の豊かな新オリエンタルビルなど、久屋大通を中心軸に活力ある名古屋が楽しみになってきました。